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授乳中のトラブルNO1「乳腺炎」
乳腺炎は授乳中であればいつでも起こりうる病状です。
授乳期間中に何度も繰り返す人もいますが
一度も乳腺炎にならずにトラブル知らずの人もいます。
たくさんの乳腺炎を見ている私から言わせてもらうと
乳腺炎にならなかった人は「とてもラッキーな人」だと言えます。
乳腺炎になると、乳腺細胞の密着構造が壊れて細胞間の隙間ができます。
密着結合は一度壊れたら元の状態には戻りません。
その後も、乳汁がうっ滞したり乳房内圧が高まると同じ部位に炎症を起こしやすくなるので
繰り返し発症することがあります。
乳腺炎とは
乳腺炎は次のように定義されています。
乳腺炎は、圧痛、熱感、腫脹のあるくさび形をした乳房の病変(限局性の病変)で
38,5℃以上の発熱、悪寒、インフルエンザ様の身体の痛みおよび全身症状を伴うものである。
乳腺炎は乳腺に起こった炎症ではあるが、必ずしも細菌感染を伴うものではない。
乳房の緊満や、乳管の閉塞・つまりがあれば、発赤、疼痛、熱感がすべて起こりうるが
その場合、必ずしも感染が存在するわけではない。
乳管閉塞、非感染性乳腺炎、感染性乳腺炎、膿瘍と一続きに変化するようである。
発生時期と発生頻度
先に、授乳中ではいつでも起こりうると書きましたが、産後2〜3週目に最も起こりやすく
大多数は6週間以内に起こると言われています。
発生頻度は約2%〜33%程度です。
授乳期間は人それぞれです。産後1年経って始めて乳腺炎になる人もいます。
産後の月齢に関係なく突然発症するのが「乳腺炎」です。
乳腺炎の原因
乳腺炎発症の主な要因は「乳汁うっ滞」と「感染」です!
そして次の点が誘因となります。
- 乳頭の傷、黄色ブドウ球菌の付着(赤ちゃんの顔面の湿疹に要注意)
- 授乳前の手洗いが不十分
- 授乳回数が少ない、回数または授乳時間を決めて授乳している。授乳をとばす
- 赤ちゃんの吸着が弱い、又は上手くできず、効果的に乳汁を飲み取れていない
- 乳汁の過剰分泌状態
- 急に授乳をやめる
- 乳房が圧迫されている(きついブラジャー、シートベルトなど)
- 乳頭上の白斑、乳管閉塞、水疱、カンジダ感染症
- 母親のストレスや疲労(特定の食物が人における乳腺炎のリスクであるエビデンスはない)
これらの項目は、乳腺炎ガイドラインに書かれています。
注目すべきは一番下の文章です!
特定の「食物が誘因ではない」と書かれていますね。
ちまたで言われている「肉や脂もの、乳製品、ケーキなどの甘い物、高カロリー食品など」が
乳腺炎を発症させている訳ではないという事です。
ひだまり助産院に依頼してくる母親は「ケーキを食べてしまいました・・・」と
すまなそうに怒られるのを覚悟で打ち明けてくれます。
私は全く怒りませんけどね(#^.^#)
むしろ、母乳育児をしていたらお腹が空きますよね~~。
甘い物やお肉が食べたくなりますよ。
ぜひ美味しく召し上がって下さい。
だからと言って、母乳育児と食生活が全く関連がないという事ではありません。
母乳は母親の血液から作られています。食事のバランスは大切なのは明白です。
偏り過ぎず栄養バランうを考えた食事を意識しましょう。
乳腺炎の分類
乳腺炎は、うっ滞性乳腺炎、感染性乳腺炎に分類されます
- うっ滞性乳腺炎
乳管の閉塞や乳汁うっ滞が長引いた場合、細菌感染には至っていないが蓄積された乳汁により乳房に炎症を生じた状態を指す。通常、片側性に局所の発赤、腫脹、硬結、圧痛、熱感があり、全身的に軽度の発熱が見られることがある。うっ滞性乳腺炎のすべてが感染症に移行するわけではない。 - 感染性乳腺炎
上記の症状発症から12〜24時間以内に症状が改善されず、片側性の局所の発赤、腫脹、硬結、圧痛、熱感だ殿症状が強く、発熱がみられ悪寒や体の痛みなどの感冒様症状があるがある場合には細菌感染を疑う。
乳腺炎が悪化すること膿瘍化することもありますが、
乳腺炎になった途端に膿瘍化することはありません。
「うっ滞性乳腺炎➡感染性乳腺炎➡膿瘍化」
という経過をだどります。
感染性乳腺炎をそのまま放置することで起こりますので
乳腺炎になった時には早めの対応が必要です。
赤ちゃんが授乳を嫌がる理由
乳腺炎になると赤ちゃんが授乳を嫌がるしぐさを見せることが多いです。
いわゆる「授乳拒否」「授乳ストライキ」ともいわれます。
そして赤ちゃんによっては、乳首を噛んだり、引っ張ったり、ウンウンうなって飲んだりなど
いつもの飲み方とは違って、穏やかに飲まなくまります。
赤ちゃんがオッパイを嫌がっているからと言って、母乳が嫌いになったという訳ではありません。
赤ちゃんはお母さんのオッパイが「いつもと違うよ! 何か変だよ!」と
教えてくれているサインと考えられます。
言葉で伝えることが出来ないから、仕草で必死に伝えようとしています。
実は、乳首を噛んだり引っ張ったりするのは、詰まった乳腺を開通して治そうとしているのです。
乳首に傷ができている場合は、傷の延長線上にしこりがあったりします。
赤ちゃんはお母さんが気付く前にトラブルを察知しています。
とっても賢いですね!
乳腺炎になると、乳汁が乳房内に溜まることでナトリウム濃度が高くなります。
赤ちゃんは母乳の味の違いを感じて、嫌がるしぐさを見せることもあります。
赤ちゃんの飲みかたがいつもと違っていたら、乳房にしこりがないかチエックしてみましょう。
乳腺炎の対処法
乳腺炎の対処法は4つあります。
「頻回授乳」「圧迫授乳」「抱き方を変える」「詰まった乳腺からの搾乳」
1.頻回授乳
とにかく、しこりがある側から授乳をしましょう。赤ちゃんが吸って治してくれることも多いです。熱が出ていても授乳は止めないで下さい。熱があっても母乳は変質していませんので安心して下さい。
2.圧迫授乳
しこりの外側を乳頭方向に圧迫しながら授乳をします。圧迫することでしこりの内圧を高めて赤ちゃんが吸った時に優先的に母乳が出やすくなります。乳腺の内圧を高める程度の圧迫で効果があります。
よくやりがちなのが「しこりの上を擦る」「ゴリゴリしこりを押す」行為です。これは摩擦で皮膚トラブルを引き起こす原因となりますし乳腺を痛めてしまうのでやめましょう。
3.抱き方を変える
普段と違う抱き方にすると、赤ちゃんの口の当たり方が変わるので詰まった乳腺が開通することがあります。横抱き、フットボール抱き、縦抱きなどがあります。試してみましょう。
しかし、いつもと違う抱き方だと授乳しにくくて赤ちゃんがしっかり吸えないこともあります。その場合は無理しなくていいです。吸えない抱き方を続けて母乳が飲めないのであれば乳腺炎は良くなりません。その場合は、いつもの抱き方でしっかり飲んでもらう方が断然いいです。
4.詰まった乳腺からの搾乳
乳腺炎は母乳の出口が詰まることで起こります。自分で乳頭から母乳を搾ってみて詰まった出口を探してみましょう。最初は乳頭と乳輪を優しくマッサージして柔らかくします。しばらくすると母乳が出てきます。「痛い」「不快な感じ」という場所があったら、そこを狙って搾りだすようにします。
しこりがあったら、搾乳器で搾ればいいと思うかも知れませんが・・・搾乳器はおススメしません。搾乳器は陰圧で母乳を引くだけなので、流れる乳腺からの母乳しか搾れません。
乳腺炎の場合は乳管が閉塞したり細くなっているので搾乳器では流れないので、手で搾乳しましょう。
自分で対処できる方法なので、乳腺炎の時にはお試し下さい。
乳腺炎は詰まり方によって、治りにくいケースもあります。
その場合には、助産師の乳房マッサージを受けて下さいね。
私はいつのも母親にお伝えしていることがあります。
「乳腺炎になったら、1日位は自力で対処して様子みてもいいですが、良くなる兆しがないならば早めにマッサージを受けてください」と言っています。
乳腺炎は時間が経過すると治りにくくなります。
腕の良い助産師でも1回では直すことが出来ずに数回のケアが必要となり、苦痛とお金と時間がかかってしまします。
悩んだときは、お近くの助産師や母乳育児の専門家に早めに相談してみましょう。
内服薬
乳腺炎になった場合、処方される薬があります。
「抗生剤、葛根湯、解熱剤」です。この3種類はセットで処方されることが多いです。
しかし、乳腺炎は最初から細菌感染が起きているわけではないので薬は必須ではありません。
薬は対症療法だと思ってください。乳腺炎の原因は乳汁がうっ滞することによって起こります。
原因であるしこりを解決することが第一選択です。
まずは「頻回授乳」か「搾乳(乳房マッサージ)」でしこりを取り除くことが重要です。
抗生剤や葛根湯がしこりを解消してくれるのではないという事を理解して下さい。
乳房は冷やす?温める?
乳腺炎になった場合に、乳房は冷やした方がいいのか、温めた方がいいのかと迷ってしまいますね。
どちらもありですが、状況と場合によります。
1、冷やす場合
乳腺炎になると乳房の痛みがあって、熱をもってきます。この場合は冷やすことで楽になります。
冷やすものは、小さい保冷剤に適度な布を巻いて冷やしましょう。
冷えピタを使用するのもありますが、あまり冷える感じは少ないと思います。
昔ながらのキャベツ湿布というのもありますが、細菌感染など賛否両論があります。キャベツには抗炎症作用があるので一概に何とも言えません。
乳腺炎で発熱するときには悪寒が起こります。悪寒がする時には体を保温した方が良いので、冷やすのは一時的に中断しましょう。
2、温める場合
乳房を温めると血管は拡張して血液循環が良くなります。乳管も開きやすくなるので乳管のつまりが開通しやすくする効果があります。
しかし、炎症が強く乳房の熱感がある場合には、温めることが逆に痛みを増強して不快を増すかも知れませんね。その場合は止めましょう。
私は基本的には、冷やしたり温めたりする必要はないと伝えています。
気分的にすることで楽になるのであればしてもいいと思っています。
乳腺炎を直すのは、やはり授乳や搾乳です。
冷やす・温めるは対症療法であると思ってくださいね。
離乳食を食べている場合
離乳食を食べている月齢の赤ちゃんの場合は、授乳を増やすと離乳食のリズムが崩れてしまうと心配になる人もいるでしょう。
専門家でも「離乳食はいつも通りにして下さい」とアドバイスする人もいます。
でも乳腺炎になった場合は治すことが先決です。
時間が経過する毎に治りにくくなります。
1日2日くらい、離乳食の量や回数が減っても成長には大きな問題にはなりません。
多少のリズムが崩れても乳腺炎が治れば、すぐ元に戻すことが可能です。
逆に乳腺炎が治らなければ感染性乳腺炎となり、最悪膿瘍化になる場合もあります。
そうなると、乳腺の切開排膿という外科的処置が必要になってしまいます。
赤ちゃんのお世話ができないという事態になる可能性があるので
乳腺炎になったら、何より頻回授乳をして治すことを優先にしましょう。
「乳腺炎の対処法」の動画
ひだまり助産院のYouTube「ひだまり助産院 子育てチャンネル」に動画を投稿しています。
乳腺炎の対処法についても動画を公開しています。
こちらもご覧になって下さい。
いかがでしたか?
乳腺炎は急に発症しますので、落ち着いて自分で出来ることをしてみましょう。
良くならなければ、早めに専門家に相談して下さいね。
それでは、また(^_-)-☆